東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)222号 判決
原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 請求の原因四の1及び同2のうちの(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 原告の主張するところは、要するに、原明細書には右請求原因四の2の(1)ないし(8)の記載があるから、硫酸鉄が本願発明の目的に適した触媒活性成分であることは原明細書に明記されており、硫酸鉄を初めから用いてよいことが原明細書の記載から明白に読み取ることができる、というものである。
よつて検討するに、成立に争いのない甲第二号証によれば、原明細書において、触媒効果についての具体的な記載があるのは酸化銅を使用する場合のみであつて(第一九頁第一八行~第二二頁第一二行)、硫酸鉄を用いる場合については、具体的な触媒効果に関して実施例もそれに準ずる記載も存しないことが認められる。
もつとも、原明細書に原告の指摘する前記(1)ないし(8)の記載があることは当事者間に争いがないけれども、これら(1)ないし(8)の記載が、硫酸鉄に関して具体的な触媒効果を示す実施例又はそれに準ずるものに該らないことはその記載に徴して明らかである。すなわち、右(1)ないし(8)の記載は、本願発明において、触媒としては酸化鉄が用いられること、本願発明においては、煙道ガス中に含まれる二酸化硫黄によつて触媒が硫酸塩化された後も触媒活性が保持されるべきであること、を一般論として述べているだけであつて、煙道ガスの処理に際し、触媒として硫酸鉄を最初から用いることは何ら記載されていないし、硫酸鉄の具体的な触媒効果を示すところはどこにも存しないのである。
ところで、触媒の本質が化学反応の反応速度に関与し、反応状態を規制するにあることは当裁判所に顕著な事実であり、成立に争いのない乙第一号証の三によれば、触媒の示す反応の選択性、反応速度に与える影響或いは触媒活性の持続性などの効果を理論若くは経験則によつて確実に予測することは、本願発明の特許出願当時においても極めて困難であり、そのことは周知の事項であつたことが認められる。
これを本願発明についてみると、前述のとおり、原明細書には、煙道ガスの処理に際して使用する触媒に関して、触媒効果について具体的な記載があるのは酸化銅の場合のみであつて、硫酸鉄については何ら具体的な記載はないのである。そして、硫酸鉄すなわち鉄の硫酸塩が酸化銅とは化学構造の点において全く異なることは当裁判所に顕著なところであるから、前記(1)ないし(8)の記載が原明細書にあるからと言つて、そのことから直ちに鉄の硫酸塩をアルミナに担持させたものを煙道ガスの処理に際して触媒として最初から用いることが記載されていると解すべき根拠はないといわざるをえない。
原告の主張は理由がなく、本件補正を却下すべきものとした審決の判断に誤りはない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
1 本件補正前のもの
(1) 煙道ガスの窒素酸化物含有量を減少させるために該煙道ガスを処理するに当り、
(a) 該煙道ガスにアンモニアを加えること、及び
(b) 該ガスを、酸化条件下で、ガス入口温度約六〇〇度Fないし約九五〇度Fにおいて、少なくとも約四〇m2/gの表面積をもつ耐火性担体に担持させた銅酸化物からなる触媒と接触させることを含む煙道ガス処理方法。
(2) 添加されるアンモニアの量が煙道ガス中に存在するNOx一モルに対して少なくとも約〇、五モルである特許請求の範囲第一項による方法。
(3) 触媒が、アルミナに担持された銅酸化物からなる特許請求の範囲第一~第二項による方法。
(4) 触媒が、銅酸化物及び周期律表のⅥ―B族及び鉄族の少なくとも一種の非貴金属遷移金属の酸化物からなる特許請求の範囲第一~第二項による方法。
(5) 触媒が、銅酸化物及び鉄酸化物からなる特許請求の範囲第一~第二項による方法。
(6) 煙道ガス入口温度が約六五〇度Fないし約八五〇度Fの範囲である特許請求の範囲第一~第五項による方法。
(7) 多孔質の耐火性担体に担持させた遷移金属酸化物からなる固定床であつて空間率が少なくとも〇、五であるものを用いる特許請求の範囲第一~第六項による方法。
(8) 煙道ガスを、多孔質担体上に支持された非貴金属遷移金属酸化物(該金属酸化物は担体粒子の外表面に隣接する外部領域の実質的に全体に配置されており、含浸の深さは約〇、〇三五インチよりも大きくない。)からなる粒子状触媒と接触させることからなる特許請求の範囲第一~第七項による方法。
(9) 触媒がリングの形である特許請求の範囲第八項による方法。
(10) ガス空間速度が少なくとも五〇〇〇V/V/hrであり、圧力降下が水柱で約二五インチを越えないような固定床に触媒を存在させる特許請求の範囲第一~第九項による方法。
(11) 必要に応じて酸素含有ガス及び/又は還元性ガスで触媒の再生を行なう工程を含む特許請求の範囲第一~第一〇項による方法。
(12) 窒素酸化物、硫黄酸化物及び酸素を含有するガス流の窒素酸化物及び硫黄酸化物含量を減少させるために該ガス流を処理するに当り、
(a) ガス流を硫黄酸化物を選択的に除去するために固体吸着剤と接触させること、
(b) 脱硫されたガス流中へアンモニアを加えること、及び
(c) 脱硫されたガス流を、酸化性条件下でガス入口温度約六〇〇度Fないし約九五〇度Fにおいて窒素酸化物の選択的還元のために固体非貴金属遷移金属触媒(該触媒は、少なくとも約四〇m2/gの表面積をもつ多孔質耐火性担体上に支持された少なくとも一つの非貴金属遷移金属酸化物からなる。)と接触させることからなる窒素酸化物、硫黄酸化物及び酸素を含有するガス流を処理する方法。
(13) 窒素酸化物、硫黄酸化物及び酸素を含有するガス流中の窒素酸化物及び硫黄酸化物含量を減少させるために、
(a) ガス流へアンモニアを加えること
(b) ガス流を、酸化性条件下で、ガス入口温度約六〇〇度Fないし約九五〇度Fにおいて、窒素酸化物の選択的還元のため固体非貴金属遷移金属触媒(該触媒は少なくとも約四〇m2/gの表面積をもつ多孔質の耐火性担体上に支持された少なくとも一つの非貴金属遷移金属酸化物からなる。)と接触させること、及び
(c) 窒素含量が減少されたガス流を、硫黄酸化物を選択的に除去するための吸着剤と接触すること、を含む窒素酸化物、硫黄酸化物及び酸素を含有するガス流を処理する方法。
2 本件補正後のもの
(1) 窒素酸化物、二酸化硫黄及び酸素を含有するガス混合物を処理して窒素酸化物を減少させるに当り、前記ガス混合物を、酸化条件下及びアンモニアの存在下にガス入口温度約九五〇度Fまでの高められた温度で、耐火性担体に支持されたV―B族、Ⅵ―B族、Ⅶ―B族、Ⅷ族の非貴金属遷移金属及び鉄―銅、これらの酸化物及びこれらの他の化合物から選ばれた少なくとも一種の触媒成分よりなる触媒と接触させることからなる、ガス混合物の処理方法。
(2) 前記触媒成分は前記非貴金属遷移金属又は鉄―銅の酸化物からなつており、前記ガス混合物は前記酸化物を少なくとも一部分を硫酸塩化するに充分な量の二酸化硫黄を含有している特許請求の範囲(1)に記載の方法。
(3) 前記触媒成分は非貴金属遷移金属又は鉄―銅の硫酸塩よりなつている特許請求の範囲(1)に記載の方法。
(4) 前記ガス混合物は前記硫酸塩の形を維持するに充分な量の二酸化硫黄よりなつている特許請求の範囲(3)に記載の方法。
(5) 前記ガス入口温度は約六〇〇度F―約九五〇度Fの範囲である特許請求の範囲(1)に記載の方法。
(6) 窒素酸化物、二酸化硫黄及び酸素を含むガス混合物を処理して窒素酸化物を減少させるに当り、前記ガス混合物を、耐火性担体に支持されたV―B族、Ⅵ―B族、Ⅶ―B族及びⅧ族の非貴金属遷移金属、鉄―銅、これらの酸化物及びこれらの他の化合物から選ばれた少なくとも一種の触媒成分よりなる触媒と接触させ、しかも前記触媒を前記ガス混合物中の酸化窒素の少なくとも七五モル%が還元される条件で行なうことよりなる、特許請求の範囲(1)に記載のガス混合物の処理方法。
(7) 触媒は固定床の形をなし、前記ガス混合物は少なくとも五〇〇〇V/V/hrの空間速度であり、しかも前記固定床を通る圧力降下が約二五インチH2Oを超えない特許請求の範囲(1)に記載の方法。
(8) 前記触媒は粒状であり、前記触媒成分は前記担体の外表面から約〇、〇三五インチを超えない深さまで含浸されている特許請求の範囲(1)に記載の方法。
(9) 窒素酸化物、硫黄酸化物及び酸素を含有するガス流を処理して窒素酸化物及び硫黄酸化物を減少させるに当り、(1)前記ガス流を硫黄酸化物の選択除去用吸着剤に接触させ、ついで、(2)脱硫されたガス流を、酸化条件下及びアンモニアの存在下に約九五〇度Fまでの高められた入口温度で耐火性担体に支持されたⅤ―B族、Ⅵ―B族、Ⅶ―B族及びⅧ族の非貴金属遷移金属、鉄―銅、これらの酸化物及びこれらの他の化合物の群から選ばれた少なくとも一種の触媒成分よりなる触媒と接触させることよりなる、ガス流の処理方法。
(10) 前記触媒成分は酸化物であり、かつ、前記ガス流は前記酸化物の少なくとも一部分を硫酸塩化するに充分な量の二酸化硫黄を含有している特許請求の範囲(9)に記載の処理方法。
(11) 前記触媒成分は硫酸塩である特許請求の範囲(9)に記載の処理方法。
(12) 前記ガス流は前記触媒成分を硫酸塩の形に維持するに充分な量の二酸化硫黄を含有している特許請求の範囲(11)に記載の処理方法。
(13) 窒素酸化物、硫黄酸化物及び酸素を含有するガス流を処理して窒素酸化物及び硫黄酸化物を減少させるに当り、(1)前記ガス流を、酸化条件下及びアンモニアの存在下に約九五〇度Fまでの高められた温度で、多孔質耐火性担体に支持されたV―B族、Ⅵ―B族、Ⅶ―B族及びⅧ―B族の非貴金属遷移金属、鉄―銅、これらの酸化物及びこれらの他の化合物の群から選んだ触媒成分よりなる触媒と接触させ、ついで、窒素酸化物の減少した前記ガス流を硫黄酸化物の選択的除去用吸着剤と接触させることよりなる、ガス流の処理方法。
(14) 前記触媒成分は酸化物であり、かつ、前記ガス流は前記酸化物を硫酸塩化するに充分な二酸化硫黄を含有している特許請求の範囲(13)に記載の処理方法。
(15) 前記触媒成分は硫酸塩である特許請求の範囲(13)に記載の処理方法。
(16) 前記ガス流は、前記触媒成分を硫酸塩の形に維持するに充分な二酸化硫黄を含有している特許請求の範囲(15)に記載の処理方法。
(17) 前記触媒成分は酸化鉄である特許請求の範囲(2)及び(14)に記載の処理方法。
(18) 前記触媒成分は硫酸塩である特許請求の範囲(4)及び(16)に記載の方法。